ネコがいました。
白とグレーの、臆病なネコです。
ネコは宿の広場の隅っこで、物音にビクビクしながら一人で遊んでいました。
そこへ人間が近づいてきて、ゆっくりしゃがみ込みました。
なにをされるかと身構えたネコですが、人間はそのまま動かず、何もしません。
チラチラとネコのほうを伺っているようですが、動く気配はありません。
そのうちじっとしていることに飽きたネコは、高く詰み上がったゴミ袋をよじ上ろうと思案しました。
しかし臆病なネコは、そのような思い切った行動をとることができません。
すると人間がゆっくりと動き出し、ネコが足をかけていた靴箱のふたをあけて、指をさしました。
ネコは気を使って、箱に入りました。
体にピッタリ、
とまではいきませんが、まあまあいいサイズの箱です。
人間が階段を上がっていってしまったので、ネコは少し後ろからついていってみることにしました。
3階へ行くと、他の人間がなでてくれたり、ネコのご主人が出てきたりして、この日はその人間のことを忘れてしまいました。
次の日、人間は本のいっぱいある部屋で座っていました。
ネコは、日頃よく見る他の人間がいつものように音楽を演奏しているのを聞きにいったところ、昨日の人間も一緒にいるのを発見しました。
音楽を演奏していた人間がやさしくなでまわしてくれ、眠たくなったので彼といっしょにねました。
しばらくして目が覚めると、一緒に寝ていた人間はいなくなり、かわりに昨日の人間が目の前でこちらを見ています。
ネコは寝たふりして、その場をやり過ごすことにしました。
しかしどうにも相手は動こうとしないので、寝たふりをやめ、毛繕いに集中することにしました。
隣からまたまた別の人間がやってきて、ネコの体をゴロンゴロン転がしながらなで上げ、毛の手入れの邪魔をします。
しょうがないので彼女の手もなめてあげることにしました。
しばらくそうして、そのままネコは別の部屋へと連れて行かれたのでした。
その日の夜、ネコはいつもの見回りに励んでいると、通り道に例の人間が座ってパソコンを触っていました。
ネコは人間の口元に鼻を寄せ、なにかおいしいものを食べたか確認して挨拶します。
人間がいいにおいのする何かを飲んでいることはわかりましたが、ネコはそれをもらえないことをわかっていたので、そのまま屋上へとあがりました。
しばらく夜風に当たり、暗くなってきた頃、ネコが急な階段を慎重に降りて下へ行ってみると、まだ人間はそこにいました。
画面に映った明るい線が気になったネコは、キーボードの上に足を置こうとします。
人間はなにか言葉を発しながら、その場を見守っているようです。
近くで別の人間がとつぜん現れ、びっくりしたネコはその場を少しだけ離れるのですが、やっぱり気になるらしく、パソコンを見つめ、そして人間の方を見ました。
しかし人間はネコの目を見ようとはしてくれません。
ネコはすぐに見回りに戻りました。
二人の仲は、ほかの人間のようになでてなでられるような親しいものではありません。
ただ通りすがりに軽く挨拶をかわしたり、お互いなにをしているのか見に行ったりする程度の、つかず離れずといったものです。
きっとその人間がいつかいなくなっても、ネコはすぐに忘れてしまうのでしょう。
それが二人の間柄なのですから。
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